Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

  “夏から秋へのモノローグ”
 

気がつけば、蝉の鳴く声が聞こえなくなってて。
その代わり、晩にならなくても、日陰ではコオロギが鳴いてたりして。
昼間のお空はまだまだ“天高く”っていうほどじゃあないけれど、
宵の夜空に見つけたお月様が、何だかやたら輪郭がくっきりして見えて。
昼日中はまだ半袖で十分で、走り回ると暑いくらいなのに、
夕方になると、まだ陽はあるのに急に腕とか背中とか寒くなる。
しょうがねぇなって、ルイがジャージ貸してくれるの羽織って帰るのが、
この時期の恒例になりつつあって。
だってバイクの後ろはサ、フツーに歩くよりも風が当たって寒いからな。
風は防いで暖ったかいけど、
ちょっと汗臭いジャージからはルイの匂いがしていて。
くっついてるのは背中なのにね、
時々、胸元へ抱っこされてるみたいな錯覚をしちゃうほど。
ルイはまだ、学ランの下にはシャツしか着てないから、

 “………あ。”

前以て何か言う訳じゃあないけれど。
次で曲がるぞとか、止まるぞっていう、気配みたいなの、
いつもこっちにくれる“それ”と一緒に、
ハンドルを切ったりする時の、腕や肩の動きが、
かいがら骨んとこへ伝わって来て。
背中とか腰とか、きゅうって締まってる筋肉が、
力を入れた動作に合わせて ぎゅぎゅうって動くのが、
しがみついてるこっちへも、頬っぺとかで判って…凄げぇカッコよくってサ。
だから、寒いんならバスで送ってこうか?なんて言われても、
今んトコのいつもいつも、絶対“ううん”って断ってる。

 「そういや、そろそろ運動会じゃなかったか?」

今日も今日とて、練習帰りの黄昏の中を てことこゆけば、
隣りに並んでたお兄さんが、そんな一言、告げたから。

 「おう。よく覚えてたな。」

アメフトの秋季大会の真っ只中なのによ。
ルイはもう部活からは引退してっから、
体が鈍
なまらないようにって
練習にだけ参加してるってカッコになってるけれど。
実は自分のことよりも後輩さんたちの出来とか優先して見てやってるし、
後衛のパスとかランの練習台にもなってやってて。
今の二年のレギュラーだけじゃあ
ついつい手が回らないトコとかのフォローもしている。
なので、坊やとしても此処はお付き合いしてやってのこと、
毎日の練習にも相変わらずでお顔を出してて。
運動会の話なんて おくびにも出さないで、
俄然 張り切って駆け回っていたから、あのね?
全然気づかないでいるもんだと思っていたのにね。
今年は1日が第一日曜なんで、次の週にズレ込むのかな、
でもせっかくの連休の中日に出て来てってカッコになるのは、
センセたちには却って大変だろうしなって思ってたらば。

 「1日になったってか?」
 「…?」

おおう、何で先に知ってますかいなと。
斜めに射し入る夕陽を受けて、
尚のこと金茶の透明さが増した、ガラス玉みたいな瞳を一瞬見開いて。
まだちょっと頭身の比率が大きくって小さな小さな肩の上、
ふかふかな金の髪を揺らしながら、
ひょこりと小首を傾げもってお兄さんを見上げれば。
そちらさんもまた相変わらずに、
恐持ての三白眼なの、ちょっぴり細めてニヤリと笑い、

 「町内会の掲示板に、お知らせが貼ってあった。」

な〜んだ、そんでか。びっくりさせんな。
ガッコでの俺んことまで、監視でもしてたんかと思ったぜ。
まま、そんなコマイことまで、気を回すような奴じゃねぇもんな。
しきりと“な〜んだ”とか“あ〜あ”とか、連呼している坊やであり。
さっさと先へ、バイクを停めてる駐車場まで、
たかたか、歩を進めてく小さな背中へ、

 「…お〜い。」

ちゃんと知ってたのにその言われようはなかろうよと、
やっぱりちょこっと怖いまんまのそのお顔で、
不貞腐れたように、詰まらなさそうに、
口許歪めてしまった葉柱のお兄さんだったりしたのだけれど。

 “こっちから言わなくて済んだな…。”

去年と一緒で、やっぱり前日の土曜に都大会の試合はあるし、
自分は試合には出ないとはいえ、
去年と変わりなく集中してたお兄さんだったから。
坊やのガッコのことなんて、全く全然、意識もしてないかと思ってた。
だから、本当にビックリしたの。
それにそれに何よりも、

 “……………。”

去年の運動会って、あんまり良い思い出はなかったからね。
競技自体は全部楽しかったけど、
坊やの豪胆さから、またもや ややこしい騒動に巻き込んじゃって。
いくら得意のライディングとはいえ、
バイクでのカーチェイスや、
果てはアクロバットもどきまでやらせちゃったのは、
坊やだってまざまざと覚えてる。
あの時もいっぱいいっぱいドキドキしたし、
今だってふっと思い出す。
あの時の、あのタイミング、
もしもスリップしてたなら、もしもクラッシュしてたなら…?

 “………っ!”

思うだけでも背中がそわそわ、うなじがぞわぞわ、してしまうから。

 「どした?」
 「ん〜ん、なんでもね。」

やり過ごそうと、立ち止まってたら、あのね?
小さな背中の半分も隠す、大きい手のひらが降りて来て。
そりゃあ元気な坊やなのに、
肩に羽織らせた自分のジャージが、
マイクロミニのワンピースみたいになっていて。
思わぬ丈の長さを強調するほどに
小さな小さな子供なんだなって今更思い知ってのことだろか。
細い肩、壊しそうに思うのか、そぉっとそぉっと触れてくれて。

 “………柄じゃあねぇだろによ。”

大雑把で鈍感で、なのに…温かくってやさしくて。
そんな大好きな手のひら、失くすとこだったの、重々反省して、
それから…あのね?

 「今年も観に来るか?」
 「そだな。今年は勝とうが負けようが影響ないしな。」

いや、だから。前の日にある、俺らの試合が、ですがと。
鋭いツッコミが来る前に、取り急ぎで補足したお兄さんへ、
判ってるってと言う代わり、

 「…あんな?」

振り向きざま、学ランの前合わせを小さな手が掴むと、
ちょこりと背伸びして来た坊やが、あのね?

 “………え?”

口元へ触れたは、ふわりとやさしい、花びらみたいな感触であり。

 「〜〜〜〜〜っ! ///////////
 「何だよ、そんなまで後ずさりするほどのことかよ。」

だっ、おまっ、こんなっ、どこだと…っ。/////////
何が言いたいのか、さっぱり判んねぇぞ、ルイ。

とりあえず一番最初の何かしら、
街灯用の支柱に広い背中が当たるまでを、
ずざざざざ…っと後ずさりしたお兄さんへ。
むっかり半分、こっちもとりあえず睨んで見せた坊やだったのだけれども。

 「………。//////////

気のせいかしら、坊やもほんのりと頬が赤くって。
だって秋はすぐにも陽が落ちるから、あのね?
それで赤いんだよ、勘違いすんなよなと、
誰にへだか、ムキになってるところがまた、
可愛らしいやら………可愛らしいやらvv
もうすぐの間近い、人恋しい季節の到来も、
関係無さそな人たちみたいでございます。




  〜Fine〜  06.9.25.


  *本館の方でもいつもご感想下さってお世話になってます、Hさんへvv
   こんな生ぬるい人たちですが、どうか進呈させてくださいませです。
(苦笑)

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